病原菌やその作り出す毒素は、その毒性を、実験や研究のために、意図的に使われることもあります。しかし、人間や動物などに対して、殺傷を目的とした「生物兵器」として利用されてもきました。
炭疽菌は、病気の原因になることが証明された最初の細菌であり、また弱毒生菌ワクチンが初めて開発されるなど、細菌学上、非常に意義深い側面がある一方、生物兵器として各国の軍事機関で研究されてきた、という影の側面もある病原体です。
『最小にして人類最大の宿敵 病原体の世界』を執筆された微生物学者の旦部幸博さんと北川善紀さんの解説で、病原体たちの「見事な」までの戦略、生態をご紹介するシリーズ、今回は人間と微生物の関係の光と影を体現する「炭疽菌」について説明しましょう。

病原菌及其产生的毒素,其毒性有时候为了实验和研究而有意使用的。但是,对于人类和动物等,作为以杀伤为目的的“生物武器”也被利用了。
炭疽菌是第一种被证明是致病原因的细菌,而且是第一种弱毒活菌疫苗被开发等,在细菌学上有非常有意义的一面,另一方面作为生物武器在各国的军事机关被研究,其另一面也是个病原体。
在执笔《最小的人类最大的宿敌——病原体的世界》的微生物学家旦部幸博和北川善纪的解说中,介绍病原体们“完美”的战略、生态系列,这次就来说明体现人类和微生物关系的光和影的“炭疽菌”吧。


医学を発展させた「最初の病原体」
炭疽菌(Bacillus anthracis)は、1876年にコッホが純培養に成功し、炭疽の原因であることを実験で証明した、記念すべき「最初の病原体」です。このときの証明手順が「コッホの原則」として広まったおかげで(コッホの原則は、〈感染症病原体VS人間の攻防史。「えんがちょ!」から抗生物質の実用化まで〉を参照)、他の感染症でも次々に病原体が発見されました。医学における微生物学や感染症学の発展は、この菌から始まったと言っても過言ではありません。
炭疽菌は土壌に生息するバシラス属のグラム陽性桿菌で、その大きさ(約1×5~10μm)は病原菌中最大クラス。顕微鏡で観察すると竹の節のような形の桿菌がいくつも繋がった、連鎖桿菌と呼ばれる形態をしています。周りの環境が悪化すると芽胞と呼ばれる、一種の「避難シェルター」を細胞内に作り出し、全遺伝子をその中に保存する能力を持っています。

医学发展的“第一个病原体”
炭疽菌(Bacillus anthracis)是1876年科赫成功纯培养,实验证明炭疽菌是导致炭疽的原因,也是值得纪念的“最初病原体”。由于此时的证明程序作为“COHO的原则”推广开来(COHO的原则是“传染病病原体VS人类的攻防史。”到抗生素的实用化为止),其他的感染症也相继发现了病原体。医学上的微生物学和感染症学的发展,可以说是从这个菌开始的。
炭疽菌是生活在土壤中的巴氏杆菌属的革兰氏阳性杆菌,其大小(约1×5~10μm)是病原菌中最大级别。用显微镜观察的话,像竹节一样形状的杆菌连接了好几个,形成了被称为连锁杆菌的形态。当周围的环境恶化时,细胞内产生了一种被称为芽胞的“避难避难所”,具有将所有基因保存在其中的能力。


生物界でも随一の耐久性を誇る芽胞
この「シェルター」ともいうべき芽胞は、生物界でも随一の耐久性を誇り、ひとたび炭疽菌が土壌を汚染すると除去が難しく、第二次大戦後にイギリス軍によって行われたスコットランド・グリュナード島の炭疽菌爆弾による散布実験では、40年以上にわたって「除染」することができなかったという記録が残っています。
炭疽菌には、非常によく似た菌が2種類存在します。一つはセレウス菌(B. cereus)という食中毒の原因菌。もう一つは卒倒病菌(B. thuringiensis)という、1901年に日本で発見されたカイコの病原菌(この菌のBT毒素が殺虫剤や遺伝子組換え作物に用いられている)です。
実はそれぞれのゲノム相同性は90%以上で、細菌の分類学上は同種にされるはずなのですが、毒性が強くて危険な炭疽菌と比較的安全な他の菌を同じ学名にして、万一、病院などで取違えが起きたら大問題になるため、別々の学名(=危険名)が与えられています。

在生物界也是首屈一指的耐久性的芽胞
这种被称为“避难所”的芽胞,在生物界也是首屈一指的耐久性,一旦炭疽菌污染土壤就很难去除,在第二次世界大战后由英国军队进行的苏格兰格林纳德岛炭疽菌炸弹散布实验中留下了40多年来无法“除污”的记录。
炭疽菌有两种非常相似的菌。一种是一种叫做塞琉斯菌(B.cereus)的食物中毒原因菌。另一种是猝倒病菌(B.thuringiensis),1901年在日本发现的蚕病原菌(该菌的BT毒素被用于杀虫剂和基因重组作物)。
实际上每个基因组同源性都在90%以上,细菌的分类学上应该是同种的,但是毒性强危险的炭疽菌和比较安全的其他菌是相同的学名,万一医院等发生错误的话会成为大问题,所以被赋予了不同的学名(=危险名)。


強力な炭疽毒素
ゲノムはほとんど同じなのになぜ、炭疽菌はセレウス菌や卒倒病菌と違って強毒性なのでしょうか? その答えは「ゲノム以外の遺伝子の違い」にあります。炭疽菌はpXO1とpXO2という大小2つのプラスミドを持っていて、そこに病原性を左右する遺伝子がコードされているのです。
pXO1がコードするのは、PA(防御抗原)、LF(致死因子)、EF(浮腫因子)という3つのタンパク質で、これが炭疽毒素の本体です。PAが標的細胞への結合を、LFとEFがそれぞれ別の毒素活性を担っている、ちょっと変則的なAB型の細菌毒素***です。
***AB型の細菌毒素:細菌毒素には、毒素活性を担うAサブユニット(1分⼦)と標的細胞への結合を担うBサブユニット(1分⼦または5分⼦)の2種類のタンパク質で構成されるものが多い。

强效炭疽毒素
基因组几乎是一样的,为什么炭疽菌和其他病菌不同,毒性很强呢?答案在于“基因组以外的基因差异”。炭疽菌有pXO1和pXO2这两个大大小小的质粒,在那里编码着左右病原性的基因。
pXO1编码的是PA(防御抗原)、LF(致死因子)、EF(浮肿因子)这三种蛋白质,这就是炭疽毒素的本体。PA与靶细胞的结合,LF和EF分别承担着不同的毒素活性,是有点不规则的AB型细菌毒素***。
***AB型细菌毒素:细菌毒素多由承担毒素活性的A亚单位(1分⼦)和承担与靶细胞结合的B亚单位(1分⼦或5分⼦)两种蛋白质构成。

菌体から炭疽毒素が分泌されると、まずPAが食細胞(マクロファージ、好中球)や心筋、上皮細胞などの表面にある特定のタンパク質(コラーゲン結合タンパク質のCMG2およびTEM8)と結合します。
PAはもともと分子量83000のタンパク質ですが、宿主細胞表面のフリン・プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)によって切断されて活性型になり、細胞膜上で集まって7~8量体の複合体を形成します。そこに1分子のLFまたはEFが結合し、このタンパク質複合体がエンドサイトーシス(飲食作用:細胞内への取り込み過程。細胞に物質が付着すると、その部分の細胞膜が物質を取り囲んで小胞となり、小胞ごと細胞内に取り込まれる)によって細胞内に取り込まれた後、LFやEFが細胞質に遊離するのです。

菌体分泌炭疽毒素后,首先PA会与食细胞(巨噬细胞、嗜中性粒细胞)、心肌、上皮细胞等表面的特定蛋白质(胶原结合蛋白CMG2及TEM8)结合。
PA原本是分子量83000的蛋白质,被宿主细胞表面的蛋白质分解酶切断成为活性型,聚集在细胞膜上形成7~8个体的复合体。其中结合了1分子LF或EF,该蛋白质复合体通过端粒进入细胞内后,LF和EF就会游离到细胞质中。

LFの正体は、亜鉛結合型プロテアーゼで、細胞の分裂や生存を司るMAPKシグナル伝達経路を完全に遮断してしまいます。この作用で標的細胞の増殖が抑制され、最終的にアポトーシス(細胞の自殺)を起こします。
一方、EFの正体は、カルモジュリン依存性アデニル酸シクラーゼという酵素。ATPからサイクリックAMPを直接合成することで、コレラ毒素と同様に細胞内のサイクリックAMP濃度が急激に上昇し、細胞内の水分が組織中に放出されて浮腫を起こします。

LF的原形是锌结合型蛋白酶,完全阻断了掌管细胞分裂和生存的MAPK信号传导路径。由于这个作用靶细胞的增殖被抑制,最终引起凋亡(细胞的自杀)。
另一方面,EF的原形是一种叫做卡莫珠林的依赖性腺苷酸环化酶。通过从ATP直接合成循环AMP,与霍乱毒素同样使得细胞内的循环AMP浓度急剧上升,细胞内的水分被释放到组织中引起浮肿。

炭疽菌がこれらの毒素を作る理由はよく分かっていません。しかし、もしかしたら栄養の少ないときは芽胞の形で耐え忍び、感染して「毒殺」したヒトや動物の死骸を土壌の栄養にして増殖する、そんな生存戦略なのかもしれません。
もう一つのプラスミドpXO2は莢膜という、菌全体を覆う高分子のカプセルを合成する遺伝子をコードしています。莢膜を持つ菌は食細胞に食べられにくく、免疫を回避して体内で増殖することが可能です。特に、血中で増殖すると敗血症を引き起こします。なお、炭疽菌莢膜の主成分はポリ-D-グルタミン酸です。このように細菌にとってD-アミノ酸は珍しいものではありません。

目前还不太清楚炭疽菌产生这些毒素的原因。但是,说不定他们的生存战略说不定是在营养少的时候以芽胞的形式忍耐,然后把感染了的人和动物的尸体作为土壤的营养增殖。
另一个质粒pXO2编码了一种叫做荚膜的东西,它能合成覆盖整个菌的高分子胶囊。带有荚膜的细菌很难被食细胞吃掉,可以避免免疫而在体内增殖。特别是在血液中增殖会引起败血症。另外,炭疽菌荚膜的主要成分是聚-D-谷氨酸。对于细菌来说D-谷氨酸并不是什么稀罕的东西。


3つの炭疽症。致死率90%以上のタイプも!

1. 皮膚炭疽

もっとも多いのは皮膚炭疽。炭疽全体の90%以上を占め、土壌中の芽胞が傷口に感染して起きる疾患です。ヒトや動物の体内に侵入した芽胞は、発芽して増殖を開始し、それとともに炭疽毒素を分泌します。
莢膜のおかげで食細胞から逃れるのに加え、感染初期にはLFがマクロファージや好中球を抑えて免疫の誘導を阻害し、炭疽菌が増殖しやすくなります。1~7日の潜伏期の後、傷口に痒みを伴う虫刺され様の病変が生じ、周りに水ぶくれができて、最終的には中央部が壊死して、「炭疽」という病名の由来になった真っ黒い痂皮(かさぶた)が形成されます。
そのまま未治療の場合、およそ80%の人は7日程度で治癒しますが、20%では菌が血液に移行して敗血症を起こしたり、LFによって心筋細胞や血管上皮細胞がアポトーシス(細胞の自殺)を起こしたり、EFによって肝臓が浮腫を起こしたりして死に至ります。幸い、有効な抗菌薬(ペニシリンやシプロフロキサシンなど)があり、適切に治療すれば致死率は1%以下です。

有三种炭疽症。也有死亡率90%以上的类型!
1.皮肤炭疽
最多的是皮肤炭疽。占炭疽全体的90%以上,是土壤中的芽胞感染伤口引起的疾病。侵入人类和动物体内的芽胞,发芽开始增殖,与此同时分泌炭疽毒素。
由于荚膜从食细胞逃跑,又加上感染初期LF抑制巨噬细胞和嗜中性粒细胞阻碍免疫的诱导,炭疽菌变得容易增殖。在1~7天的潜伏期后,伤口会产生伴有瘙痒的虫叮咬样病变,周围出现水疱,最终导致中央部坏死,形成“炭疽”这个病名由来的漆黑的痂皮。
就这样未治疗的情况下,约80%的人7天左右就能治愈,20%的人细菌转移到血液中引起败血症,LF引起心肌细胞和血管上皮细胞凋亡(细胞自杀),EF引起肝脏浮肿而死亡。幸运的是,有有效的抗菌药(青霉素和西普洛沙星等),如果适当治疗,致死率在1%以下。
2. 腸炭疽

腸炭疽は、炭疽菌で汚染された肉を食べた場合に発症する、比較的まれな消化器感染症です。吐き気や発熱からはじまり、2~3日後に激しい腹痛と出血性下痢を起こします。重症例では敗血症から死に至り、未治療時の致死率は25~50%です。

2.肠炭疽
肠炭疽是吃了被炭疽菌污染的肉时发病的比较罕见的消化道感染症。从恶心和发热开始,2~3天后会引起剧烈的腹痛和出血性腹泻。重症病例从败血症到死亡,未治疗时的致死率为25~50%。
3. 肺炭疽
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そして最も重症化するのが肺炭疽。厳密には肺ではなく、左右の肺の間(縦隔部)のリンパ節に感染するため、吸入炭疽と呼ぶ人もいます。芽胞を直接吸い込むことで感染し、最初は風邪やインフルエンザ様の症状ですが、数日後、急激に悪化して呼吸困難とショック症状を起こし、致死率はなんと90%以上(! )に達します。
昔は肺炭疽といえば、主に羊毛を扱う人など間で発生するものでした。芽胞が混じった土が羊の体に付着し、その毛を扱うときに発生する細かい毛屑と一緒に吸い込んでしまうからです。

3.肺炭疽
而最严重的是肺炭疽。严格来说不是肺,而是感染左右肺之间(纵隔部)的淋巴结,所以也有人称之为吸入炭疽。通过直接吸入芽胞而感染,最初是感冒和流感的症状,但几天后急剧恶化,引起呼吸困难和休克症状,致死率竟然在90%以上(!)中所述修改相应参数的值。
以前说到肺炭疽,主要发生在处理羊毛的人之间。因为混有芽胞的土附着在羊的身体上,和处理该毛时产生的细小毛屑一起吸入。
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ただし現在は、この肺炭疽が、別の意味で非常に危険視されています。そのきっかけになったのが、2001年9月の「アメリカ炭疽菌事件」です。
アメリカのテレビ局や出版社、上院議員宛に炭疽菌芽胞が入った封筒が送りつけられ、22名が感染、うち5名が肺炭疽で亡くなりました。後に、アメリカ陸軍研究所のブルース・イビンス研究員による単独犯行だと発表されましたが、当時は9.11同時多発テロの発生直後だったことから、生物兵器による無差別テロだと疑われたのです。
そのため、アメリカでは有効な抗生物質が買い占められて薬局から姿を消し、日本でも「白い粉」を郵送する模倣犯が相次ぐなど、社会的なパニックを引き起こしました。

但是现在,这个肺炭疽在另一个意义上被视为非常危险。其契机是2001年9月的“美国炭疽菌事件”。
美国电视台、出版社、参议员收到装有炭疽菌芽胞的信封,22人感染,其中5人死于肺炭疽。后来,美国陆军研究所研究员布鲁斯·伊文斯宣布这是犯罪,但当时是9.11恐怖袭击发生后不久,因此怀疑是生物武器引起的无差别恐怖袭击。
为此,在美国有效的抗生素被抢购一空从药房消失,日本邮寄「白粉」的模仿犯相继发生等,引起了社会的恐慌。
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炭疽菌には微生物学の発展を導いた「光の面」がある一方で、先述のグリュナード島の実験や、旧日本軍の731部隊、後に炭疽菌流出事故を起こした旧ソ連のスヴェルドロフスク細菌兵器研究所など、生物兵器としても古くから研究されてきた「陰の面」が存在します。
各国が軍事目的で研究していた炭疽菌が、現在すでにテロ組織やテロ支援国家に流出していると言われています。炭疽菌は当時の「負の遺産」となって、今も我々を脅かしているのかもしれません。

炭疽菌有引导微生物学发展的“光的一面”,另一方面,也有前述的格林纳德岛的实验、旧日本军731部队、后来发生炭疽菌流出事故的前苏联斯维尔德洛夫斯克细菌武器研究所等,作为生物武器自古以来就被研究的“阴的一面”。
据说各国以军事目的研究的炭疽菌,现在已经流出到恐怖组织和恐怖支援国家。炭疽菌成为当时的“负面遗产”,现在也可能威胁着我们。

納豆菌も"Bacillus subtilis var. natto"で親戚みたいなものですね。納豆菌も藁を煮沸して生き残る菌として利用しますから、熱には強いです。
炭疽菌の面倒なところは土壌汚染を起こすところで、本当に生物兵器として有用なのかどうかは分かりませんね。

纳豆菌也是“Bacillus subtilis var.natto”,像它们的亲戚一样。纳豆菌也是将稻草煮沸后存活下来的菌,所以耐热性很强。
炭疽菌麻烦的地方是引起土壤污染,不知道作为生物武器是不是真的有用。

さらに古い使用例では中世のヨーロッパでペストに感染した死体をカタパルトで城に投げ込んだものがありますね。

在更古老的使用例中,中世纪的欧洲有把感染鼠疫的尸体用弹射器扔进城堡的。

生物兵器は下手すれば全世界が滅ぶ可能性は十分にある。他人任せで済む訳にもいかない。
映画に出てるバイオハザードも嘘が現実になる時はいつか来る。ウイルスを防ぎきれなかった場合、世界が戦場になって終わりやからね。

如果生物武器没控制好,全世界都有毁灭的可能性。也不能交给别人解决。
电影中出现的生化危机,谎言成为现实的时候总有一天会到来。如果不能抵御病毒的话,世界就会变成战场。

狂犬病をまかれたら。どうすればいい。

如果能传染狂犬病的话。该怎么办呢。

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