「デジタル人民元」は米ドルの覇権を奪うのか

“数字人民币”会剥夺美元的霸权吗?


コロナ禍の裏で、中央銀行が発行するデジタル通貨CBDC(Central Bank Digital Currency)の開発競争が激しくなっています。

在新冠灾祸的背后,中央银行发行的数字货币CBDC(Central Bank Digital Currency)的开发竞争正在激烈进行中。

すでにいくつかの中央銀行が、本格導入を視野に入れたテスト運用(パイロットテスト)の段階にまでこぎつけており、中銀デジタル通貨の実現は、もはや「時間の問題」となっているものと言えるでしょう。パイロットテストを実施しているCBDCとしては、中国の「デジタル人民元」、カンボジアの「バコン」、スウェーデンの「eクローナ」、バハマの「サンド・ダラー」、東カリブの「デジタル東カリブドル」などがあります。

已经有几家中央银行进入了正式导入的测试运用阶段,可以说中银数字货币的实现已经是“时间问题”了。正在进行试点测试的CBDC有中国的“数字人民币”、柬埔寨的“巴康”、瑞典的“e克朗”、巴哈马的“Sandelay”、东加勒比的“数字东加勒比美元”等。

この中でも、とりわけ注目を集めているのは、中国による「デジタル人民元」でしょう。近年の米中対立を背景として、「フェイスブックの仮想通貨リブラに対抗するため」「アメリカのドル覇権への挑戦」という文脈で語られがちですが、はたしてその見方はどこまで妥当なのでしょうか。筆者の新刊『アフター・ビットコイン2:仮想通貨vs.中央銀行「デジタル通貨」の次なる覇者』から、ポイントをご紹介したいと思います。

其中,特别引人注目的就是中国的“数字人民币”吧。在近年来的中美对立的背景下,“为了对抗脸书上的虚拟货币libra”“挑战美国的美元霸权”这样的句子经常被提及,那么这种看法到底有多妥当呢?笔者在新刊《After比特币2:虚拟货币vs.中央银行“数字货币”的下一个霸主》中,介绍一下重点。

■「発行秒読み」に入ったデジタル人民元

■进入“发行秒读”的数码人民币

主要国の中で、CBDCの発行に向けて先頭を切っているとみられているのが中国です。中国人民銀行の高官から、昨年8月には「デジタル通貨の発行は近い」、9月には「デジタル通貨の発行準備はほぼ完了している」といった強気の発言が聞かれるようになり、中国による世界初のデジタル通貨の発行が迫っているとの観測から世界は騒然となりました。

在主要国家中,中国被认为是CBDC发行的领头羊。中国人民银行的高官在去年8月表示“距离数字货币的发行已经很接近了”,9月则表示“数字货币的发行准备基本上完成了”等强硬言论,从中国的世界首次数字货币的发行已迫在眉睫的观测来看,世界已然要陷入一片骚动。


2020年に入ってからは、蘇州(江蘇省)、深圳(広東省)、成都(四川省)、雄安新区(河北省)の4つの「重要実験都市」で、テスト運用が始まりました。このテストには3つの主体が参加しています。

进入2020年后,苏州(江苏省)、深圳(广东省)、成都(四川省)、雄安新区(河北省)4个“重要实验城市”开始了试运行。本次实验有三个主体参加。



■「リブラに対抗しようとしている」は間違い?

■“想要对抗利布拉”是错误的?

さて、デジタル人民元について、報道では「中国は、フェイスブックのリブラに対抗しようとしているのだ」といった論調が目立ちました。これは、リブラ構想が2019年6月に発表され、その直後の8月頃から中国人民銀行の高官による「発行は近い」といった発言が聞かれるようになったためで、確かにその部分だけを取り出してみると、あたかも中国がリブラに対抗しているように見えます。

那么,关于数字人民币,报道中有“中国正在对抗脸书的Libra”这样引人注目的论调。这是因为在2019年6月发表了Libra构想,紧接着8月左右,中国人民银行高官发表了“距离数字货币的发行很近了”的言论,确实只取出这一部分来看,就好像中国在对抗Libra一样。

しかし、その見方は事実とは異なるのではないかと筆者は考えています。中国人民銀行では、すでに2014年夏には、CBDCの研究チームを立ち上げ、中銀デジタル通貨の研究に着手しています。2017年には「デジタル通貨研究所」(数字貨幣研究所)が設立され、研究体制がさらに拡充されました。リブラ構想が出てきたからといって、慌てて開発に着手したわけではなく、数年をかけてじっくりと準備を進めてきたのです。

但是,笔者认为这种看法和事实是不一样的。中国人民银行已经在2014年夏天成立了CBDC研究小组,着手研究中银数字货币。2017年设立了“数字货币研究所”,研究体制进一步扩充。虽说已经有了Libra的构想,但也不是慌慌张张的着手开发,而是花了几年时间慢慢地进行了准备。


もう1つの気になるメディアの論調が、デジタル人民元について、「アメリカのドル覇権に対する挑戦であり、人民元の国際化を目指したものだ」とする見方です。これもまた、メディアが好みそうな見解ですが、やはり筋違いな見方と言えるでしょう。

另一个令人在意的媒体论调是关于数字人民币,认为“这是对美国美元霸权的挑战,是以人民币国际化为目标的。”这也是媒体喜欢的见解,不过,我还是可以说这是不合理的看法。

そもそもデジタル人民元は、「現金の代替」として、国内での個人や企業の取引(小口決済)に使うことを目的としています。一方で「通貨の国際化」を論じる場合には、貿易取引や外為取引などの国際的な決済(大口決済)に幅広く使われるかどうかが基準になりますが、そもそもデジタル人民元は、そうした国際的な取引での利用を目指したものではないのです。

原本数字人民币就是作为“现金的替代品”,以用于国内个人或企业的交易(小额结算)为目的做出来的。另一方面,在讨论“货币国际化”的情况下,以是否广泛用于贸易交易和外汇交易等国际结算(大宗结算)为基准,数字人民币并不是以利用这种国际交易为目标的。


一方、デジタル人民元が、一帯一路に関わる地域を中心に海外にも拡がっていくことを予想する向きもありますが、もしそれが実現したとしても、それはスマホを使った決済として、中国人の海外での買い物など小口決済の世界の話になるでしょう。

另一方面,也有人预测数字人民币将以一带一路的地区为中心向海外扩展,但是即使是实现了,那也只是作为手机支付,中国人在海外购物的小额结算而已吧。

先に述べた通り「通貨の国際化」を果たすためには貿易の決済や外為取引など大口決済の分野で幅広く使われるようになる必要があります。すなわち、人民元がデジタル化することは、少なくとも現時点においては人民元の国際化とは関係はなく、ましてや基軸通貨としてのドルの位置づけとは、まったく無関係であると考えるべきでしょう。

如前所述,为了实现“货币国际化”,就有必要在贸易结算、外汇交易等大宗结算领域广泛使用。也就是说,人民币数字化至少在目前与人民币的国际化无关,更何况与作为基础货币的美元定位完全无关。

■人民元の国際化のための「秘密兵器」

为了人民币国家化的秘密武器

もっとも、だからと言って、中国がアメリカのドル覇権に対して挑戦する意図を持っていないと言うつもりはありません。現在、ドルを主体とする国際決済に用いられている国際的なネットワークがSWIFTです。アメリカでは、最近、このSWIFTを他国に対して経済制裁を行う際のツールとしてしばしば利用するようになっており、中国にとっては望ましいシステムではないのは確かでしょう。

话虽如此,我并不打算说中国没有挑战美国的美元霸权的意图。现在,以美元为主体的国际结算使用的国际网络是SWIFT。美国最近经常把这个SWIFT当作对其他国家进行经济制裁时的工具,对中国来说确实不是理想的系统。

拙著『アフター・ビットコイン2』で指摘したのは、人民元の国際化という点では、むしろ2015年に稼働を開始した「人民元クロスボーダー決済システム」(CIPS)という人民元決済のシステムに注目すべきだという点です。

在拙著《After Bitcoin 2》中指出,在人民币国际化这一点上,不如说更应该关注2015年开始运作的“人民币跨境结算系统”(CIPS)这一人民币结算系统。

CIPSは、「Cross-Border Interbank Payment System」の略であり、中国が貿易取引や外為取引などのための人民元決済を目的として構築した決済システムです。90カ国以上から900行以上が参加している世界的ネットワークで、日本からも三菱UFJ銀行、みずほ銀行などが参加しています。

CIPS是“Cross-Border Interbank Payment System”的简称,是中国为贸易交易和外汇交易等以人民币结算为目的而构筑的结算系统。其连接了90多个国家的900多家银行参加的世界性网络上,其中也包含日本的三菱UFJ银行、瑞穗银行等。

このようにCIPSは、世界中に人民元決済のためのネットワークを張り巡らせており、24時間いつでも人民元建ての決済を行うことが可能となっています。アメリカがSWIFTを経済制裁のツールとして利用する傾向が強まる中で、CIPSは、SWIFTの代替的なネットワークとして、ドルへの依存を低下させることを目指しているものとみられています。

像这样,CIPS在全世界都建立了人民币结算的网络,24小时都可以用人民币结算。在美国越来越倾向于将SWIFT作为经济制裁工具来使用的情况下,CIPS作为SWIFT的替代网络,旨在降低对美元的依赖性。

つまり、CIPSは「人民元の国際化のための秘密兵器」なのであり、国際基軸通貨をめぐる米ドルとの覇権争いという視点からすれば、デジタル人民元などより、むしろCIPSの方に注意を払っていくべきでしょう。

也就是说,CIPS是“人民币国际化的秘密武器”,从围绕国际基轴货币与美元争夺霸权的角度来看,比起数字人民币,更应该注意CIPS。