訳者あとがき

大森 望
译者后记
大森望


あの『三体』は、ほんのプロローグでしかなかった! 地球文明と異星文明が織りなす壮大なドラマはいよいよここからが本番。分量が前作の五割増しになっただけでなく、時間的にも空間的にも桁違いのスケールで想像力の限りを尽くす。三部作の中ではこれが最高傑作との呼び声も高く、実際、エンターテインメントとして図抜けていることはまちがいない。前作を読んで高まりきった読者の期待を裏切らないどころか、予想をはるかに超えるスリルと興奮、恐怖と絶望、歓喜とカタルシス、ロマンスとアクションを満喫させてくれる。

《三体》现在看起来只是序幕!地球文明与外星文明共同构成的盛大戏剧的本篇终于开始上演。《黑暗森林》与前作相比,不仅增加了五成的篇幅,无论在时间还是空间都有着数量级程度的差别,穷尽了想象力的极限。三部曲中本作通常被誉为最高的杰作,事实上毫无疑问,作为娱乐小说相当出众。呈现了远超预想的刺激和兴奋,恐怖和绝望,欢喜与净化,浪漫与动作,之前读过前作而抱有高期待的读者也绝不会失望。

……と、思わず口上に力が入ったが、お待たせしました。劉慈欣《三体》三部作の第二作、『三体Ⅱ 黒暗森林(こくあんしんりん)』をお届けする。本書は、二〇〇八年五月に中国の重慶出版社より《中国SF基石叢書》の一冊として刊行された『三体Ⅱ 黑暗森林』の、中国語テキスト(後述)からの全訳にあたる。

……不由自主地写了这么多感想,让各位久等了。刘慈欣《三体》三部曲的第二部,《三体2 黑暗森林》在此交付于您。本书基于2008年5月中国重庆出版社发行的《中国SF基石丛书》中的《三体2 黑暗森林》的中文文本,为全译本。

ご承知のとおり、この《三体》三部作(または《地球往時》三部作)は、全世界で累計二千九百万部以上を売る驚異的なベストセラーとなり、小説界に革命を起こした超弩級の本格SF巨篇。諸般の事情で日本では翻訳が遅れたが、二〇一九年七月、第一作の『三体』日本語版が早川書房から刊行されると、たちまち大評判となり、増刷に次ぐ増刷。発売一カ月で十二刷に達し、電子書籍と併せて十二万部という、翻訳SFの単行本としては前代未聞の数字を叩き出した。反響もすさまじく、主な活字メディアだけでも百を超える書評が出た。そのほんの一部を抜粋して紹介すると──

如您所知,《三体》三部曲(又作《地球往事》三部曲)是在全球范围取得累计2900万本以上销量的惊人的畅销书,作为在小说界引起了革命的超级科幻文学巨著。因为种种原因,日本国内的翻译开始较晚,2019年7月,第一部日语版《三体》由早川书房刊行,很快大受好评,多次增加印量。发行后一个月重印多达12次,加上电子版销量足有12万册。就单行本翻译作品来说是空前的。反响也相当强烈,仅主流纸质媒体就发表了100多个书评。以下为部分摘录:


「まず本作の面白さというのは、理学、工学、社会学に人間ドラマとあらゆるものが息もつかせず押し寄せてきて積み重なっていくところにあり、かつて日本で小松左京がこの技法を駆使して傑作を生みだし続けたことを彷彿(ほう ふつ)とさせる。/進むごとに広がり続けるお話が一体どれほどの大きさになるのかについては、まず間違いなく大半の人々の予想を遥(はる)かに超えることになるはずである」(共同通信、円城塔氏)

“首先本作的有趣之处在于,理学,工程,社会学科与发生于现实的故事等等以令人窒息的速度奔涌堆积起来,令人感到仿佛是过去日本作家小松左京曾用这种技法来不停产出杰作。/随着阅读进度而扩展的故事舞台,究竟会发展到多么广阔呢?可以说,应该是远超大多数人的期待。”(共同通信,圆城塔)

「高邁(こうまい)な物理学の知識をベースにした圧倒的なスケールの小説。中国には三国志や水滸伝などスケールが大きい物語が多い。本書はそれらに匹敵するだろう。中国は小説でも世界を支配するのか」(読売新聞、江上剛氏)

“基于高等物理学的规模庞大的小说。中国拥有众多像三国志和水浒传等巨著。本书是能够与之匹敌的吧。小说方面中国也在全世界处于支配地位。”(读卖新闻,江上刚)




というわけで、主に通信(情報)によるファーストコンタクトを描いた『三体』に対し、本書ではいよいよ、(アーサー?C?クラーク『2001年宇宙の旅』にオマージュを捧げつつ)物理的なファーストコンタクトが描かれる。ページ数が増えただけではなく、時間的にも空間的にもはるかにスケールアップ。異星艦隊の襲来、刻一刻と迫る地球滅亡の時……というあたりは「宇宙戦艦ヤマト」を彷彿とさせるし、作中に出てくる田中芳樹『銀河英雄伝説』を思わせる軍略や戦争哲学も披露される一方、変貌した未来社会の姿も見せてくれる(メインテーマとなる〝黒暗森林?理論については、陸秋槎氏の巻末解説に詳しい)。

如上所说,与主要通过信息进行交流的《三体》不同,本书终于(致敬亚瑟·C·克拉克《2001太空漫游》)描绘了与三体人的物理接触。(内容略)外星人入侵和地球毁灭的危急关头……这些描写就像《宇宙战舰大和号》的场面,作品中的军事战略和战争哲学则让人想起田中芳树《银河英雄传说》。此外也展示了剧变的未来社会形态。(有关黑暗森林理论的主题,陆秋槎在卷尾进行了详细说明。)


葉文潔が羅輯に伝える宇宙社会学は、いわば劉慈欣版の心理歴史学。四人の面壁者をはじめとする登場人物たちは、終末決戦に備えて、それぞれ未来のヴィジョンを描くが、その中で、いったいだれが本物のハリ?セルダンなのか? という問いが本書のストーリーの隠れた縦糸になっている。

由叶文洁传达给罗辑的宇宙社会学,就是刘慈欣版本的心理史学。本书描绘了以四位面壁者为首的登场人物们为应对最终决战采取的各种打算,其中究竟谁才是真正的哈里·谢顿?这个疑问是始终贯穿本书故事的一条暗线。

インタビューなどで、往年の〝大きなSF?に対する偏愛を隠さない劉慈欣だが、《三体》三部作には、クラークやアシモフに代表される黄金時代の英米SFや、小松左京に代表される草創期の日本SFのエッセンスがたっぷり詰め込まれている。こうした古めかしいタイプの本格SFは、とうの昔に時代遅れになり、二一世紀の読者には、もっと洗練された現代的なSFでなければ受け入れられない──と、ぼく個人は勝手に思い込んでいたのだが、『三体』の大ヒットがそんな固定観念を木っ端微塵に吹き飛ばしてくれた。黄金時代のSFが持つある意味で野蛮な力は、現代の読者にも強烈なインパクトを与えうる。それを証明したのが『三体』であり、『黒暗森林』『死神永生(ししんえいせい)』と続くこの三部作だろう。『三体』がSFの歴史を大きく動かしたことはまちがいない。

在采访中,刘慈欣毫不掩饰自己对以前“大科幻小说”的偏爱,《三体》三部曲也的确充满了克拉克和阿西莫夫所代表的黄金时代的英美科幻小说,以及小松左京所代表的早期日式科幻的要素。这些经典风格的科幻文学早已过时,二十一世纪的读者只欣赏成熟的现代科幻作品——个人这样以为,《三体》的轰动一时打破了这种刻板印象。黄金时代科幻小说所具有的某种意味来说野蛮的力量,依然能够使现代读者产生强烈的印象。《三体》,以及续作《黑暗森林》、《死神永生》三部曲就是证明。《三体》毫无疑问强烈地撼动了科幻小说史。



(中略)
(原文此处省略)

本書の翻訳作業の後半は、新型コロナウイルス禍ともろにぶつかり、テレビやネットで報じられる国内外の終末SFじみた光景が小説の内容と重なって、フィクションと現実の境目が曖昧になる気分を味わった。著者が敬愛する小松左京の『復活の日』が予言的なパンデミックSFとして脚光を浴び、ふたたびベストセラーリスト入りしたのも奇妙な偶然と言うべきか。それもまた、〝大きなSF?の力を示す実例かもしれない。

本书翻译的后半程,我震惊于新冠病毒造成的灾难,电视和网络所报道的末世流科幻小说般的国内外光景正与小说的内容相重合。虚构与现实的界限感觉好像变得模糊了。作者所喜爱的小松左京的《复活之日》作为富有预见的流行科幻小说而再次受到关注,再度登上畅销榜。应该说这也是个奇妙的巧合。或许同样也是显示了“大科幻小说”的力量的现实例子。

さて、本書の結末で危機紀元は終わりを迎えるが、物語にはまだ続きがある。『黒暗森林』をはるかに超えるものすごいスケールで展開する完結篇『三体Ⅲ 死神永生』の邦訳は、2021年の春ごろ刊行予定。面壁計画の背後で進行していた〝階梯計画?とは? 人類を救った羅輯を待ち受ける皮肉な運命とは? 新たな主人公、程心(チェン?シン)とともに、小説はありえない加速度で飛翔する。実を言うと、三部作の中で個人的にいちばん好きなのがこの『死神永生』。21世紀最高のワイドスクリーン?バロック(波瀾万丈の壮大な本格SFを指す)ではないかと勝手に思っている。お楽しみに。

最后,在本书结尾处迎来了危机纪元的终结,然而故事还在继续。以远超《黑暗森林》的庞大规模展开的完结篇《三体3 死神永生》的日语版预计将在2021年春发行。在面壁计划的背后同时进行的所谓“阶梯计划”究竟是?拯救了人类的罗辑将要遭遇的讽刺命运又是什么?与新的主人公程心一同,小说以超出想象的速度放飞。实话说,三部曲中个人最为喜欢的正是《死神永生》。简直是21世纪最高的巴洛克电影(指波澜万丈的壮阔科幻文学),个人如此认为。敬请期待。